中国発の生成AIモデルDeepSeekが近年世界中で注目を集めています。そうした中で、「DeepSeekと他の生成AIと違いとは?」「DeepSeekを使う際の注意点はある?」このような疑問をお持ちの方も多いでしょう。
本コラムでは、DeepSeekの特徴や利用方法までわかりやすく解説します。さらにDeepSeekを利用する際の注意点までお伝えしますので、ご参考にしてください。
DeepSeekとは?
DeepSeekは、中国発のAIスタートアップが開発したLLM(大規模言語モデル)です。LLMとは、AI技術のひとつで、人間のように自然な文章を生成したり、画像を生成したりできる技術を指します。
LLMを活用した代表的な生成AIモデルには、ChatGPT、Gemini、Claudeなどが有名ですし、すでに使ったことがある方も多いでしょう。このように、生成AIには数多くのモデルが存在しますが、そのなかでDeepSeekはどのような違いがあるのでしょうか?ここでは、DeepSeekの特徴を詳しく見ていきましょう。
安価で高性能
DeepSeekは、他の大規模AIモデルと比べて開発コストを大幅に抑えることに成功しました。一般的に、AIモデルの学習には膨大なリソースが必要とされるため、数十億円規模の開発コストが掛かるといわれています。
しかし、DeepSeekでは、効率的な学習手法や最適なハードウェアの活用を図ったことで、約2カ月で約550万ドル(約8億円)という圧倒的低コストでの開発を実現しました。
圧倒的なスケール
DeepSeek(V3)は、約6710億のパラメータを持ち、学習データ量も約14.8兆トークンに達しています。これは、Metaの「Llama 3.1 405B」(4050億パラメータ)の約1.6倍に相当し、現在の生成AIモデルの中でもトップクラスの規模です。
モデルの規模が大きいほど、より複雑な言語理解や推論が可能になり、さまざまなタスクに高精度で対応できます。したがって、DeepSeek(V3)はこのスケールの大きさを活かし、プログラミング、分析、翻訳、文章作成など、幅広いシーンでの活用が見込まれます。
マルチモーダル対応
DeepSeekは、マルチモーダルにも対応しています。マルチモーダルとは、テキストの生成だけでなく、画像、音声、コードなどさまざまな情報を処理できることを指します。
例えば、画像を読み取ってその内容を説明する、音声をテキストに変換する、コードを生成する、デバッグを行うといったことが可能です。これにより、クリエイティブ分野や教育分野でも活用の幅が広がると期待されています。
DeepSeekの各モデルの特徴
DeepSeekは、複数のモデルを展開しています。その中でも、高性能を誇るモデルとして注目されているのが「DeepSeek V3」と「DeepSeek-R1」です。ここでは、各モデルの特徴をわかりやすく解説します。
DeepSeek V3の特徴
DeepSeek V3は、2024年12月にリリースされた大規模言語モデルです。具体的には、次のような特徴があります。
過去最大規模のパラメータ数
DeepSeek V3のパラメータ数は6710億に達し、学習に使用したデータ量は14.8兆トークンという規模です。これは、MetaのLlama 3.1 405B(4050億パラメータ)を大きく上回る数値であり、現在のオープンモデルの中でも最上級の規模を誇ります。
Mixture-of-Experts(MoE)アーキテクチャの採用
DeepSeek V3は、効率的な計算処理を可能にする「MoE(Mixture-of-Experts)」を採用しています。この技術により、すべてのパラメータを一度に使用するのではなく、専門領域だけを動作させることで、計算コストを抑えつつ高い性能を維持することが可能です。
推論速度が高速
DeepSeek V3は、従来のモデルと比べて推論が速いと評価されています。特に、マルチヘッドアテンション(Multi-Head Latent Attention)やマルチトークン予測(Multi-Token Prediction)といった最新技術の導入により、メモリ効率を向上させながら処理速度を大幅に向上させることに成功しました。
オープンライセンスでの公開
DeepSeek V3は、オープンソースとしてMITライセンスのもと公開されており、商用利用やカスタマイズも自由に行うことができます。そのため、企業や研究者が独自に改良し、さまざまなアプリケーションに活用することが可能です。
DeepSeek-R1の特徴
DeepSeek-R1は、2025年1月にリリースされた推論特化型の大規模言語モデルです。具体的には、次のような特徴があります。
数学・コーディング・推論タスクに強い
DeepSeek-R1は、数学、プログラミング、論理的推論の分野で優れた性能を発揮するように設計されています。MMLU(大規模多分野知識評価)やMATHベンチマークなどのテストにおいて、他の先行モデルを上回るスコアを記録しており、数式処理やアルゴリズムの理解力が強みです。
OpenAIの「o1」モデルに匹敵する性能
ベンチマークテストの結果、DeepSeek-R1はOpenAIのo1(GPT-4oに相当)とほぼ同等の精度を持つと評価されています。一方、APIの利用料金はOpenAI o1と比べて約96%安価で提供されており、コストパフォーマンスの面でも優れていることが特徴です。
強化学習(RL)を活用した高精度モデル
DeepSeek-R1は、強化学習(Reinforcement Learning)と、教師あり学習を組み合わせた多段階アプローチで開発されています。これにより、一般的なLLMよりも論理的な推論が得意であり、長文の文脈理解や複雑な問題解決に優れています。
日本語対応モデルの登場
2025年1月27日には、日本語を追加学習させた「DeepSeek-R1-Distill-Qwen-14B/32B-Japanese」がリリースされました。このモデルにより、日本語の自然な対話や文章生成が可能となり、より幅広い用途に対応できるようになっています。
DeepSeekショックとは?
DeepSeekの登場は、市場に大きなインパクトを与え、その影響度の高さから「DeepSeekショック」と呼ばれています。実際に、DeepSeekが登場した影響で2025年1月には米国のハイテク株が急落。さらに、DeepSeekのiPhone向けアプリが無料アプリランキングでChatGPTを抑えて1位を獲得したことも注目を集めました。
DeepSeekショックの要因には、DeepSeekが大規模なGPUリソースを使わずに高性能AIを実現した点にあります。従来、最先端のAI開発には数百億円規模の投資が必要とされていましたが、わずか約8億円の開発費で、OpenAIのo1モデルに匹敵する性能を持つAIを発表したことで、業界の常識を大きく覆したのです。
その結果、既存の生成AIプラットフォームの料金設定やビジネスモデルに大きな影響を与えると見られています。
DeepSeekの資本背景—High-Flyer Capital Managementとは
DeepSeekは、中国の量子系ヘッジファンド「High-Flyer Capital Management」からの資金提供を受けているAI企業です。High-Flyerは、AIを活用したアルゴリズムトレーディングで成功を収めており、その利益をAI開発に再投資しています。
特に注目すべきは、High-Flyerが1,000台以上のNvidia A100 GPUを備えた大規模な計算クラスターを構築している点です。これにより、DeepSeekは膨大な計算リソースを確保し、わずか2カ月・約8億円という低コストでDeepSeek V3を開発することができました。
High-Flyer創業者の梁文峰(Liang Wenfeng)氏は、「クローズドソースAIは一時的な参入障壁にすぎない」と述べており、今後はオープンソースのAIモデルが主流となる未来を想定しています。
このような背景から、DeepSeekは従来型のAI企業とは異なる独自の成長戦略を取り、低コストかつオープンなAIモデルを提供することで市場競争を激化させているのです。
DeepSeekの使い方
DeepSeekは、Webチャット、Web検索、スマホアプリ、API、ローカル環境など、さまざまな方法で利用できます。特に、オープンソースで提供されていることから、自由度の高いカスタマイズやシステムへの統合が可能です。また、手頃な料金体系も魅力で、個人利用から企業の業務システムへの導入まで幅広く対応できます。
ここでは、各利用方法について詳しく解説していきます。
Webチャットでの利用方法
DeepSeekは、公式Webサイト上で提供されるWebチャットを利用することで、簡単に質問や対話を行うことができます。以下の手順で利用可能です。
1.公式サイトにアクセスする(DeepSeek公式サイト)
2.「Start Now」をクリックし、メールアドレスとパスワードを登録するか、自身のGoogleアカウントでログインする
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3.ログイン後、チャット画面が表示されるため、質問を入力して会話を開始する
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DeepSeekでは、日本語にも対応しており、自然な会話形式で質問応答が可能です。
ここでは、例としてデータ収集とAIとの関係について質問してみます。「DeepSeekはどのようなデータを学習していますか?」という質問をしたところ、以下のような回答が得られました。
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Web検索にも対応
DeepSeekは、通常の会話型AIとしての機能だけでなく、Web検索機能も備えています。これにより、最新の情報を取得して回答を生成することが可能です。
利用方法
- Webチャット画面で「Search」モードを選択する
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- 質問を入力(例:「最近のNVIDIAの株価変動について教えて」)
- DeepSeekがインターネット上の最新記事を検索し、その情報をもとに回答する
回答結果には、参照元が記載されています。この機能により、最新ニュースやトレンドに即した回答を得ることが可能です。
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スマホアプリ
DeepSeekのスマホアプリは、iOS/Android向けに提供されており、App StoreやGoogle Playからダウンロード可能です。
アプリの利用方法
1.アプリストアで「DeepSeek」を検索し、アプリをダウンロードする
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2.メールアドレスまたはGoogleアカウントでログインする
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3.チャット画面が表示され、AIとの対話を開始
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アプリは、外出先でも手軽に利用できるほか、Web版と同様にWeb検索機能も搭載しています。さらに、「DeepThink」モードでは高精度な推論が可能です。
APIでの利用方法(サンプルコード)
DeepSeekは、OpenAI互換のAPIを提供しており、開発者向けに簡単に導入できます。
APIの活用例
- カスタマーサポートの自動化
- 業務システムへの組み込み
- データ分析や自然言語処理の高度な活用
APIの取得方法
- DeepSeekの公式APIページにアクセス
- 「Billing」→「API keys」タブからAPIキーを取得
- 必要に応じてクレジットカードやPayPalでチャージする
PythonでのAPI利用(サンプルコード)
以下のコードを実行することで、DeepSeekのAPIを利用してチャットを行うことができます。
ローカル環境
DeepSeekは、Hugging Face経由でローカル環境にも導入可能です。
ローカル環境のメリット
- 機密データを扱う際に情報漏えいのリスクが少ない
- インターネット接続環境がなくとも利用できる
- カスタマイズや追加学習を容易に行える
利用手順(Python)
- 必要なライブラリをインストールする
- モデルとトークナイザーをロードする
- 入力データをモデルに渡す
料金体系(V3とR1)
DeepSeekは、従来の大規模言語モデルと比べて圧倒的に安価な料金体系を提供しています。
モデル | 入力価格(100万トークン) | 出力価格(100万トークン) |
DeepSeek-V3 | $0.30(キャッシュミス) | $1.50 |
DeepSeek-R1 | $0.55(キャッシュミス) | $2.19 |
特徴
- OpenAIのGPT-4oに比べて安価である
- キャッシュ機能を活用することで、さらに低コスト運用が可能
- 無料で試せるWebチャットやスマホアプリも提供
日本語の品質は?ビジネス業務で使えるの?
DeepSeekは、日本語の処理能力が高く、ビジネスメール作成や文章校正、ブログ執筆、プログラミングなど幅広い業務に活用できます。誤字脱字の修正や文法の適正化、英語から日本語への翻訳もスムーズに行え、業務文書の作成に適しています。
また、PythonやGoogle Apps Script(GAS)のコードを日本語の指示で正確に生成できるため、業務の自動化にも貢献します。特に、アポイントメントメールや広告コピーの作成では、自然で適切な表現を用いることが可能です。
ただし、文脈の理解が必要な高度な文章では、事実と異なったり、表現に違和感があったりします。生成された文章はそのまま使用するのではなく、必ず人間の目で確認するようにしましょう。
他社モデルとの比較
DeepSeekは、低コストで高性能なオープンソースAIとして注目されていますが、他の大規模言語モデル(LLM)と比較するとどのような違いがあるのでしょうか。以下の表に、代表的なAIモデルとDeepSeekを比較しました。
モデル名 | 価格(100万トークン) | マルチモーダル対応 | 日本語品質 | 特徴 |
DeepSeek R1 | 入力 $0.55 / 出力 $2.19 | ○ | 高評価(実務可) | 安価で高性能、オープンソース |
OpenAI o1 | 入力 $15.00 / 出力 $60.00 | ○ | 最高水準 | ChatGPT-4o相当、高価格 |
Claude Sonnet 3.5 | 入力 $3.00 / 出力 $15.00 | ○ | 良好 | 長文処理に強い |
Gemini 1.5 Pro | 無料(Googleアカウント) | ○ | 良好 | Google検索と連携 |
■比較ポイント
- 価格
DeepSeek R1は、OpenAIのo1と比べて約27分の1のコストで利用可能で、圧倒的な低価格を実現しています。
- マルチモーダル対応
DeepSeek、OpenAI、Claude、Geminiの主要モデルはすべてマルチモーダル対応(テキスト・画像・コードなどの処理が可能)です。
- 日本語品質
OpenAI o1が最も高い精度を持ちますが、DeepSeek R1も実務レベルで使用可能な品質を備えています。Claude 3.5やGeminiも良好な日本語対応をしていますが、DeepSeekは特にコストパフォーマンスが優れています。
- 特徴
DeepSeekはオープンソースで提供され、開発者が自由にカスタマイズできる点が強みです。一方、OpenAI o1やClaude 3.5は商用向けの安定した品質を提供している点が特徴です。
DeepSeek利用時の注意点
DeepSeekを利用する際には、いくつかの注意点があります。特に、データの透明性やライセンスの問題、情報の正確性については十分な注意が必要です。ここでは、利用時に押さえておくべきポイントを解説します。
学習データの透明性に関する懸念
DeepSeekはオープンソースとして提供されていますが、学習データの詳細は公開されていません。そのため、知的財産権の侵害リスクや、学習データの信頼性に関する問題が指摘されています。特に、企業が機密情報を扱う場合や、学習データの出所が明確でないAIを利用する際には、慎重な対応が求められます。
ChatGPTモデルの蒸留疑惑がある
DeepSeekがOpenAIのChatGPT(GPTモデル)を蒸留(知識を圧縮・転移する技術)しているのではないかという疑惑が存在します。もしこれが事実であれば、知的財産権の問題が発生する可能性があり、商業利用において法的リスクを伴う可能性があります。特に企業が利用する場合は、ライセンスの詳細を確認し、適切な利用範囲を守ることが重要です。
情報の正確性に関する課題
DeepSeekのAIは、ニュースや情報に関する正答率が低いとされています。例えば、ニュースガードの検証では、DeepSeekのニュース関連回答の正確性は17%にとどまり、約83%が誤情報または曖昧な回答であると報告されています。このため、特に事実確認を必要とする業務では、他の信頼できる情報源と併用することが推奨されます。
商業利用時のライセンス確認
DeepSeekはオープンソースでありながら、利用規約の詳細が不明瞭な部分もあります。特に、商業利用を検討する際には、ライセンスの適用範囲や禁止事項を事前に確認することが重要です。企業がサービスに組み込む場合や、大規模に運用する際には、DeepSeekの利用条件を遵守し、必要に応じて法務部門と相談することをおすすめします。
まとめ
DeepSeekは、安価で高性能なオープンソースAIとして注目を集めており、特にDeepSeek V3やR1は、他社の大規模言語モデルと比べても優れたコストパフォーマンスを誇ります。ビジネス業務での活用も十分可能で、日本語の品質も実務レベルに達しており、文章作成やプログラミングの支援にも適しています。
一方、DeepSeekを利用する際はいくつかの注意点があります。特性を正しく理解し、用途に応じた適切な活用が求められます。今後の技術の進化や、さらなる改良によって、どのような成長を遂げるのか注目していきたいところです。
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